循環型社会への貢献を目指す、ベンチャー企業の先駆け。 / ものづくり企業取材・明和工業株式会社
2017.3.16
KEY POINT
1】自社開発したバイオマス炭化装置でコアビジネスを展開する中小企業。
2】窒素循環、環境汚染など、地球規模の環境課題解決へのカギとなる技術やプラントを研究開発。
3】国や大学などと連携した数多くのプロジェクトにも取り組む。
4】海外に向けた事業展開を本格化。
世界の環境問題を改善へと導くエコロジー技術。
急速な経済発展や人口増加にともない、地球温暖化や環境汚染などが深刻化する地域は増えている。そんな時代の救世主となりうる、画期的なエコロジー技術を開発する企業が、金沢市にあることをご存じだろうか。
世界からも注目されつつある目覚ましい技術を生み出すのは『明和工業株式会社』という社員数わずか50人ほどの中小企業だ。主にバイオマス炭化装置の研究・開発・製造に力を入れている。
家畜糞尿や下水汚泥、生ごみといった有機ゴミを同社の炭化装置に投入すると、電力や化石燃料をほとんど使わず、低コストで炭ができるという。その炭は燃料や肥料などに有効利用でき、また副産物として土壌改良などに使える木酢液もとれる。まさしく究極のリサイクルシステムといっていい。貧しい発展途上国での運用も期待でき、世界的に広まれば地球規模での自然と調和した暮らしが現実味を帯びてきそうだ。
他にはない新技術を生み出す、研究開発力。
その優れた技術力を生み出す秘訣は、心臓部とも言える「実験棟」だろう。北野滋社長に案内されて内部に入ってみると、そこは、さながら秘密工場のようだ。汚泥や生ごみから生成されるメタンガスを発電につなげる装置をはじめ、バイオマスから燃料や電力を生み出す装置など、実験段階の大型設備が所狭しと並ぶ様子には目を見張るばかりだ。設備一つひとつの仕組みについて目を輝かせながら説明してくれる北野さんの姿に、ものづくりへの並々ならぬ情熱が見てとれる。
ここでは、顧客の様々なニーズに対応できるよう、実証データをとりながら実用化に向けて、日々実験が繰り広げられており、国や大学、国際機関などを巻き込みながら資金を調達し、様々な研究開発を進めている。
これまで培った技術を応用して、環境分野へ進出。
『明和工業』は、鉄工所として1964年に金沢市薬師堂町で、3人の兄弟によって創業。下請け仕事ゆえ価格が自分たちで決められない不自由さを感じ、まもなくメーカーの道を選んだ。最初に手がけたのは、大学と共同開発した排煙脱硫装置の製造だ。大気汚染や水質汚濁の公害防止のため、排ガスから有害物質を除去する設備だった。
北野さんはその頃、大学卒業後に働いた千葉の石油コンビナートを退職して地元へ。専攻の化学工学の知識を活かすため、『明和工業』に入社した。だが、回ってくる仕事は受注ではなく、この排煙脱硫装置のクレーム処理ばかりだったという。
そののち、北野さんは排煙脱硫装置の技術を活用し、農業用の集塵装置を開発。ライスセンターやカントリーエレベーター施設など全国2000箇所に納入して、売上を大幅に伸ばすことに成功。この集塵装置こそが、会社の基礎をつくり上げたのだ。
20年以上前の外国米輸入の政策転換という局面で将来への危機感を抱き、新たにもみ殻の処理装置を手がけ、次第に現在のバイオマス炭化装置や発電装置といった環境分野へ乗り出していった。最近では、バイオマス燃料を使ったストーブのほか、食肉センターで排出された汚泥をバイオマス炭化装置により生成した炭化物を、新肥料「肥炭粉(ぴったんこ)」として販売。2016年「いしかわエコデザイン大賞」と「プレミアム石川ブランド認定」を獲得し、ひときわ注目を浴びる。
屋外の敷地には自家栽培の田畑もあり、むろんここもまた実験の場となっている。化学肥料と炭肥料を使っての栽培実験では、炭の肥料の方が野菜は大きく育ち、その有効性を実証した。大根、ネギ、白菜など、栽培された野菜はどれも生命力にあふれるビッグサイズ。社屋の玄関先にてサービス価格で販売したり、社食弁当には収穫した発芽玄米や野菜を使用した減塩調理の健康食を提供したりして、社員たちへ還元される。
社員の挑戦や活躍の場を広げる、中小企業の強み。
思いついたことは何でも次々と挑戦してみる北野さんの豊かな発想力とスピード感に満ちた行動力は、一体どこからやってくるのだろうか。北野さんは言う。「潜在意識が大切になってきますね。何か困りごとや解決すべきテーマが出てくると、いつか見たもの聞いたものがおのずと繋がって、閃きが生まれるんです」。
北野さんは、ワンフロア空間で社員とともに席を並べ、時には若手社員にも話かけるなど、風通しが良い働きやすい環境を心がける。「社長は親しみやすく、社員同士も会話が弾み過ぎるぐらいアットホームな職場です」と話すのは、入社して16年目の東 健吾さんだ。資材調達や現場製作を経て、現在は営業技術部で設計図面や施工、試運転などを担当する中堅社員。機械工学を学んだこともあり、農業廃水処理設備を手がける事業内容に興味を抱き応募したそう。「小さな会社だから専門外のこともやらざるを得ないんですが、その分いろいろなことを経験できるので、とてもやりがいがあります。目標に一生懸命向き合う人といっしょに働きたい」。そう語る東さんは、「昇進にはあまり興味がありません。それより、これまでなかった新しいものを完成させてみたい」と、あくまでも開発への強い思いを寄せる。
革新的なエコロジー技術を、世界中へ売り込む。
北野さんは、今世界が抱える環境問題の原因のひとつに「窒素循環」を挙げる。「化学肥料が生まれて100年、土壌はすでに窒素過多で湖や地下水まで汚染されてしまう。水草が覆いつくすビクトリア湖もまた、窒素循環の乱れが原因。そこで炭化装置でゴミを肥料に処理活用すれば窒素循環のみならず、発展途上国の悲惨なゴミ問題も解決するはず。環境汚染が影響を及ぼす地球温暖化、生物多様性の問題にもバイオマス炭化技術で切り込んでいけたら」。一方で、バイオマスだから無条件にいいというわけではないと北野さんは強調する。「インドネシアでは、燃料用のパームヤシ栽培のためジャングルを切り開き、工場を建てるために先住民を追い出している。乱開発されている現実はあまり知られていないんです」。
同社の独自技術は、そんな環境問題を抱える世界へ広がりつつある。例えば、燃料を褐炭に頼るモンゴル・ウランバートルでは、煤煙による大気汚染が深刻化し、同社の無煙炭化装置が導入に向けて話が進められている。2016年のアフリカ開発会議(TICAD)にも出展し、アフリカ各国やインドなどからも問い合わせが来るほど、大きな手応えを得ている。
すでに、アジアのみならず、アフリカ、南米、EUなどの海外展開も始まっており、海外事業部を立ち上げて各国への売り込みをかけている。
「最初は社員全員の名前を覚えるのが大変で、社内にいる人宛ての電話にうっかり『いません』と答えて失敗したことも。最近はセールストークを覚えたいと、先輩について回っています。社員のどなたも、質問すれば優しく教えてくれて働きやすいですね」と話すのは、海外事業部の一人である入社1年目の内モンゴル出身の蘇布達(ソブダ)さん。モンゴル語、英語、中国語、日本語の4か国語を使いこなす女性社員で、来日して7年という。大学では環境学を専攻したこともあり、環境に関わる仕事を探し求めて同社へ。今は、先輩のサポートをしながら、海外展開のための資料準備などを進めている。展示会では中国からの来客にも対応し、炭化技術が注目されていることを肌で感じる機会となったそうだ。
「私は内モンゴルの貧しい地域の出身。近年、干ばつが続き、牧場の草が年々短くなり、砂漠化が進んでいます。故郷に炭の技術を持っていけば、緑を増やせ、畜産分野にも活かせるのではないかと考えています。また、炭を使って現在の井戸水を浄化し、より安全な飲み水が確保できれば、水が原因の病気も減らせるかも知れません。そんなふうに発展途上国の環境問題に少しでも貢献できれば嬉しい。今後、自分ならではのプロジェクトを提案して実績に結び付けていけるようがんばりたい」と、蘇布達さんの仕事にかける意気込みは強い。
柔軟な発想とチャレンジ精神がものづくりの原動力。
北野さんが一番に求める人材は「外向き志向」だ。「どんなことも経験してやろう」という熱い意欲が大事だということ。そんな「外向き志向」を鍛え育てようと、社員には海外出張でもあえて一人で行かせてみるのだとか。「トラブルが起きることは承知のうえです。人は失敗しないと成長しない。失敗しないということは何もしていない証拠ですからね。そしてこの会社の中で一番失敗してきたのは間違いなく私でしょうね」と北野さんは笑う。
「海外事業部が本格稼働してきたことで、社員全体の意識も変わりつつあります。私は、『30年後には社員の誰かがノーベル賞を獲れるはず』と社員たちにはっぱをかけています。それほどの価値が充分ある事業に携わっているという自負を持って、日々の仕事に取り組んでもらいたいんです」。
失敗を恐れずに、飽くなき探究心でチャレンジし続けたからこそ生み出された『明和工業』の技術開発力。今や、世界規模の環境問題への解決の糸口となるべく、金沢から世界へと大きく羽ばたこうとしている。すべては循環型社会の実現のため。『明和工業』のたゆまぬ努力と挑戦はこれからも続いていく。
※本取材は、中部経済産業局「中部地域における地域中小企業・小規模事業者の人材確保支援等事業」として実施しております。