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“当たり前”の世界をつくるための、影の立役者。 / ものづくり企業取材・株式会社小松電業所

2017.3.15

KEY POINT
1】産業機械の制御装置から建設機械の部品まで。工業界の多彩なものづくりに携われる。
2】独自の多工程一貫システムを採用。プレスに溶接、塗装、組立まで、全てを社内で網羅する。
3】社員同士の仲がよく、新卒・中途採用含めて離職率が低い。
4】若手育成にも積極的で、即戦力として20~30代の登用が目立つ。


創業当時、“個人商店”からスタートしたんです。


金沢から車で走ること、およそ30分。
小松市の、とある工業団地に入れば、その一角に見えてくるのが『小松電業所』だ。
取材のため、中に入ろうと会社の門をくぐったとき、
ふと工場の外に、“パーツのようなもの”がずらりと並べられていることに気が付いた。

なんだか車のフロント部分にもみえるし、機械の一部のようにもみえる。
うーん、どこかで見たことがある気もするけれど・・・、ここは一体なにを作っている会社なんだろう?

「それはね、建設機械のパーツです。
今、うちでつくっている製品の9割は、建設機械の部品なんです」
そう語るのは、小松電業所の若き社長・塚林幸作さんだ。


聞けば、ダンプカーにブルドーザー、パワーショベル、フォークリフトなど、
様々な建設機械を手掛けているという同社。
なるほど、さっき見掛けたパーツは、これらの一部だったというわけか・・・。
しかし、それを聞いてちょっと疑問に思ってしまった。
だってここ、『電業所』ですよね?

「そうそう、古くさかのぼれば、うちは元々電気屋だったんですよね。
それこそ家電の販売から家庭の電気工事、農機具の修理なんかもしていたんです。
あとは、九谷焼の電気窯とか、ろくろも作ってたりして。実はそんな歴史があるんですよね」

家電販売に配線工事。まさに“地域密着型の電気店”といったところだろうか。
それなのに、一体どうして今のような事業展開になったんだろう?

「電気関係ということから、初めは『コマツ(株式会社 小松製作所)』さんが手掛けるプレス機の制御盤をつくらせていただくようになって、そしたら次は、“建設機械のほうもつくらないか?”ってお声掛けいただくようになったんです。そうやって、つくるものがどんどん進化してきて今に至る、という感じですかね」


なんともさらりと語る塚林社長だけれど、ちいさなまちの電気屋から、
建設機械部品の総合メーカーとして、大きく変貌を遂げてきた小松電業所。
今や、国内外に工場や拠点を持つほど発展したその裏側には、
きっと並々ならぬ企業努力や社員の成長があるに違いない!?
ということで、小松電業所の秘密を探るべく、早速中を案内してもらうことにした。


カメレオンのように変化する、小松電業所の秘密。


工場内に足を踏み入れると、そこはまるで、大きな秘密基地のようだった。
抜群の存在感を醸す800tプレス機に、24時間体制のファイバーレーザー加工機、
熟練工の手とロボットによるコンビネーションが光る溶接に、最新鋭の粉体塗装ライン。
そして、それらを正確に操るたくさんの職人たち。

“今この瞬間、ここで何かが生まれている。何かがつくられている”
そんなものづくり業界ならではのダイナミックさを、肌で感じられる空間だ。

「ものをつくる仕事って、できたものがちゃんと“カタチ”になって見える仕事でしょう。
だから、ある意味ではストレスが少ないと思うんですよね。他の仕事に比べたら、
肉体的な負担は大きいかもしれないけど、精神的なストレスはきっと少ないんじゃないかな。
ただ昔は、毎日毎日、それを1ヶ月間にもわたって、同じものをつくり続けていたらしいんです。
それこそ、『およげ!たいやきくん』の歌にあるみたいにね(笑)」
そう言って笑う塚林社長。
しかしその言葉を聞いて、思わずその光景を想像してみる。

同じ工程、同じ動作、同じ部品に向き合う日々。単なる作業と考えれば、
精神的ストレスは少ないにしても、どこかで飽きてしまう人だっているだろう。
しかし、ものづくりの世界は“出来上がったものが、すべて”。
多少のミスがあっても、「まぁ、いっか」で済ませられることなんて、絶対にない世界だ。
だからこそ、毎日の小さな積み重ねを確実なものにすること。
“基本中の基本”ができていてはじめて、新しいことに応用していけるということを忘れてはいけない。




実際、小松電業所の出荷件数を聞いてみると、
エンジンフードにサイドカバー、ラジエーターカバーなどの外装製品から、
運転席やヘッドカバー、燃料タンクといった、多様なマシンのあらゆる部分まで。
ひと月あたりおよそ1,300種類ほど出荷しているとのこと。
しかも、それらをバラバラにして、“部品数”として計算してみれば、
多い月でなんと7万点ほど製造しているというから、ただただ驚いてしまう。

このように、まるでカメレオンのごとく、市場のニーズに合わせて自らを変えてきた
“多品種少量・変種変量生産”。
これこそが、小松電業所の強みでもある。


相手を想う優しさは、巡り巡って大きな輪になる。

「そうやって、プレートを切るところから溶接をして、塗装して組み立てまでする。
最初から最後までやりきる一貫体制が、すごくいいなって思ったんです」
そう語るのは、大学でバイオ化学を専攻していたという理系女子の松本靖世さん。
今年で入社3年目ながら、部長から「期待しているよ!」と太鼓判を押されるほどの、
若手ホープの一人でもある。


一見、ほんわか優しい笑顔を浮かべる松本さんだけど、
もしかして、さっき工場でみた巨大なプレス機を操る凄腕女子?と思いきや・・・、
彼女が格闘しているのは、なんと機械の“設計図”だという。

「品質保証という部署に所属していて、社内でつくった製品と、外注から入ってきた製品の
検査をしています。その際、それぞれの設計図をもとにしながら塗装がちゃんとされているか、
欠品がないかなどチェックしているんです。それこそ、切っただけの板やクッションみたいな簡単なものから、ボルトとかボス、さらにはもっと大きな物まで。
ちなみに、今測っているものだと、丸1日かけて1つ検査をしてますね」


え、1日に検査する量が、たった1つだけ?
大きな声では言えないけれど、「さすがにそれは時間をかけすぎでは・・・?」なんて、
ひそかに思ってしまう。

「そう思うかもしれませんが、寸法だけじゃなくて、溶接の箇所が合っているか、
個数があってるかなど含めて全部検査するんです。
となると、今検査しているサイズのものになれば、検査箇所は“何百ヵ所”ってあるんですよね(笑)」


そういって笑う松本さんをみて、ちょっとでも疑ってしまった自分が恥ずかしくなった。
ミリ単位の世界で勝負する“ものづくり”の仕事において、人の目を通してシビアに確認する。
その仕事もまた、この業界になくてはならない役割なのだ。

しかし、職人の世界といえば、「見て覚えてナンボ」のイメージ。
「やっぱり、現場って上下関係が厳しいんですか?」と尋ねてみると、
「いや、フレンドリーです。最高です」と、満面の笑顔。
またしても、こちらの予想を裏切ってくる。

「社内を歩いてたら声を掛けてくれたり、製品の不具合を見つけて担当部署に持っていったら、“ありがとう!”って言ってくれたり。あとは、スポーツしたり飲み会したり、年代や部署に関係なく本当にみんな仲がいいですね。でも、その中で私が一番感じるのは、同じ班のメンバーの優しさです。
以前、不具合のある製品を出荷してしまったとき、班のみんなで集まって対策を考えてくれて、
“誰にでもあることなんやから、同じことを繰り返さなければいいだけ。いちいち気にするな。大丈夫だから”って、先輩がそう言ってくれたんですね。先輩だったら絶対そんなミスをするわけがないんですけど(笑)。でもそうやって、怒られたり責められたりすることがほとんどないからこそ、逆に“次こそは絶対に頑張らなきゃいけない”って思えるんです」


たしかに塚林社長も
「みんな全然怒らないから、自分がネチネチ言ったりしていると性格が悪くなったように感じる(笑)」
なんて口を揃えるあたり、“人の優しさ”が、この会社の文化として根付いているんだろうか・・・。
その小さな疑問は、次の社長の言葉を聞くことで、“納得”へと変わったのだった。

「人って、生活の基盤ができていないと、どうしても余裕が生まれてこないと思うんですよね。
例えば、社会貢献したいという気持ちがあったとしても、自分に一切余裕がなければ本当の意味でそこに情熱を傾けることができないはず。だからこそ、一人ひとりが前を向いて動き出していくためにも、
働く環境、収入、人間関係を整備していくこと。それが会社としての役目でもあるんじゃないかなって、
そう思っているんです」

その想いが会社全体に浸透しているからだろうか、
同社では、今20~30代の若手社員がメインの戦力になり、
これからの次代を担っていくポジションとして、メキメキと力をつけているとのこと。
こういった若手社員の成長も、同社にとってひとつの“大きな変革”と言えるのかもしれない。


機械をつくることで、一人ひとりの生活をつくっている。

そんな“変革期”といえば、今、ものづくり業界はまさにその渦中にある。
3DプリンタやAI(人工知能)の登場によって、誰でも簡単にものがつくれてしまう時代になってきた。
テクノロジーの急速な発達は、小松電業所にとってどんな影響を与えることになるんだろう。

「会社にとってみれば、何か新しいことをしようとしたときの選択肢が増えることになるでしょうね。
と同時に、クライアントやユーザーの要求が高くなったり、あるいは業界全体の流れをガラリと変えてしまったりすることだって有り得るわけです。ただ一つ言えることは、基礎になる“ノウハウ”を身につけていない限り、いくらテクノロジーが発達してもそれを使いこなせないと思うんですよね。
人間が、自分で体感して得た技能をもってはじめて、機械とコラボさせてどう使っていくのか。
基本原理を理解して応用させていくことこそが、これまでもこれからも、
変わらずものづくりの分野において、とても大切な軸なんじゃないかな」

そこで最後、こんな質問をぶつけてみた。
“もし世界に、この仕事がなかったら、一体社会はどうなっているんでしょうか”

うーん・・・と少し考えたあと、塚林社長はこう答えてくれたのだった。


「わかりやすく言えば、2020年に東京でオリンピックは開かれないと思いますね(笑)。
だって、新しいスタジアムや施設、道路を含めて、全てを“人力”で作っていくことになりますから。
これからあと15年後くらいになっちゃうんじゃないかな。となると、我々の仕事がなければ、
今、僕たちがいるこの時代にすら、まだまだ辿り着いていないかもしれないですね」

建設機械部品の総合メーカーと聞けば、建設機械をつくる仕事だと思うかもしれない。
しかし、ただ単に“機械をつくっている”わけではないということ。

道路や建物など、インフラ整備のための様々な機械を手掛けるということは、
誰もが好きな場所に行けて、自由に働き、大切な人と一緒にごはんを食べて、
ゆっくり休むことができる場所をつくるということ。
それはつまり、わたしたちの生活すべての土台をつくっているといっても過言ではないんじゃないかな。

今、これを読んでいるあなたが“当たり前だ”と思っていることを、“当たり前に動かしている”。
それこそが、きっと小松電業所の仕事なんだと思う。



※本取材は、中部経済産業局「中部地域における地域中小企業・小規模事業者の人材確保支援等事業」として実施しております。